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【対談】MiL株主 為末大さん × CEO 杉岡侑也(前編)
皆さん、こんにちは!MiL広報の川出(カワイデ)です。
これまではMiLの社員にインタビューしてきましたが、今度は実際にMiLを応援してくださっている株主のみなさまにも直撃したいと思います。
記念すべき第1回目は、元プロ陸上選手で、現在はご自身で会社を経営されている為末大さんです!
前編では、「走る哲学者」といわれている為末さんが考える「食」とは、そして今回なぜMiLへの投資を選んでくださったのか。後編では、今後あるべき姿とMiLに期待していることについて、2回にわたって配信します!
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対談:
為末 大 さん【為】
杉岡 侑也【杉】
インタビュアー:
川出 朱夏
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おふたりの出会いと杉岡の第一印象について率直に教えてください!
【為】最初は僕が参加したある会社のイベントに(MiLが運営しているレストラン倭 西麻布の)ケータリングを出していて、そのときに杉岡くんが声をかけてきてくれたのがきっかけでした。
「明解だな」って最初に話したときに思いましたね。「僕はこれがしたくて、これをしています。」口には出さなかったですけど「あなたには、こういうことをお願いしたいです」というのがハッキリしてた。それって実は難しいことなんですよね。「こんなことがやりたい」まではみんな言えるけど、その為にどうやったらいいのかとか、「あなたにこれをしてもらえたらハッピーです」とまで言える人ってなかなかいない。だからすごく印象に残ったんです。
【杉】 すごい言いやすかったのもあります。為末さんなら受け入れてくれそう、という印象が僕にはあったんです。みんながみんなに言えてるわけじゃないですよ(笑)
【為】でも普段から考えてないと言えないですよ。
【杉】確かにそうですね。まあ、どベンチャーすぎてそのときに「これを一緒にやりたい!」と思っていたことと、今やってることが一緒か、というとそうでもないんですけど。
【為】その瞬間に自分が思っていることをクリアに説明してあるってことだから。結構(杉岡くんの)そういうところをみてるんだなと思います。競技者をみているときもあまり変わらなくて。「何やりたいの?」って聞いたときに出てくる答え方によって、その選手のそのときのビジョンが見えてくると思っています。「なぜ変わったのか」をしっかり説明できていたり、「今はこういうことなんです」って説明がその都度できれば、別にそれって変わってもいいと思うんです。むしろ変わっていくことが大事なんじゃないですかね。
【杉】それって、目標を持つことで、シンプルかつクリアにそこに到達するまでの明確なプロセスをひけるから、達成しやすいからいいというでしょうか?
【為】そうだね・・・ 多くの選手って複雑にしちゃうんですよね。「…で、何がやりたいの?」ってなってしまう。だけど杉ちゃんの場合、「僕がやりたいのこれです」って30秒ぐらいで伝えられると思うんです。「一番大事なことは何か」っていうのをわかっている。「野生の勘なんですよね」って答えても、修練できているから言えるんだと思います。
【杉】よかったです(笑)
最初投資の話を受けたときにどう思いましたか?
【為】当時そういうこと(投資)をやりたいなと動いていたのもあったんです。ただ、スポーツ業界以外への投資ははじめてですね。スポーツマンがスポーツの領域に踏み込むのってわかりやすいんですけど、実は、健康とかライフスタイルとかにいく方が出せるバリューが高いと思うんです。また、自分の中で投資先に対する判断基準があって、「この人すごそうだな」と思えるかと、その人に対して「僕はこういう貢献ができそうだな」という二つがないとうまく行かないと思っています。その上で今回、”食べもの”ってありかもしれないな、と思ったのが大きかったですね。
もともと食べるのがお好きだと伺いました!食には興味があったんですか?
【為】そうですね。あとは、どんなものを食べるか、ということを考えないといけない職業だったので。(陸上選手としての)現役時代から食事も自分で研究していました。でも、コーチをつけている選手でも、海外にいくと大体一人になっちゃうので。バイキングとかで「どれにしますか?」と言われた中で選ばなければならない。
【杉】しかも、いっぱいありますもんね。
【為】そうそう。結局、チョイスするセンスが競技力と関係してきたりするんです。一人で海外をまわった経験は大きかったなと思います。
【杉】アメリカにいたときから、そういう考えがありましたか?
【為】アメリカもそうですけど、最初は22歳のときのオランダ滞在したときに身についた覚えがあります。試合のたびにドイツやオーストリアやイタリアに行ったりするんですけど、3食ホテルに缶詰状態ということもよくあったんです。朝は「オムレツにしますか?サニーサイドアップ(目玉焼き)にしますか?」といった小さな積み重ねで、コンディションも変わってくる状況だったんです。
【杉】その小さな変化に気づくって、自分の真ん中を知っていないとなかなか難しいですよね。ブレに気づかなかったり、なぜブレているのかが分からなかったりしそうですよね。
【為】それこそ、当時は今みたいに血糖値のデータとか取れなかったので、そういうのが取れてたらまた色々変わったかもしれないですね。体感で、基礎はこういった食べものだろうといった感じで食べるものを選んでいました。とはいえ、おいしくないものは食べたくないし。加減が大事ですよね。
【杉】やはり競技への(食の)インパクトって大きかったんですか?
【為】なんていうか、食はボディーブローみたいな感じなんですよね。じわじわ効いて、長期でみるとすごく効いてる。競技人生自体も延ばしたりするので。練習した次の日どこまで回復しているか、ということにもやっぱり影響してきますし、それってすごく大きいことだと思うんです。
【杉】ビジネスマンもうまく回復できる人は強いですよね。努力の質も量も増える気がします。
【為】そう。若いときは放っておいても回復するんですけどね。
【杉】じゃあ、アスリートの人も長く活躍している人ほど食にこだわってるんですかね。
【為】僕はそういう傾向があると思っています。僕の周りでも長くスポーツをしている人って食べるものには特に気を遣っていた人が多いです。若いときはなかなか気がつかなくて「おいしいもの食べたい!」ってなるんですけど、あとから感じてくるんですよね。
【杉】それって習慣なんですかね。ちなみに習慣を身につける上で、生後1,000日の食事の大事さが謳われていますが、食習慣だけでなくアスリートとしての結果にも紐づく感じでしょうか。
【為】それはすごく大きいと思います。日本人の最大のアドバンテージは、ついバランスの良いものを食べたくなる舌を持っていることだと思います。試合後に、ケチャップをべったりつけたのを食べたくなる人と、あっさりしたもので満足できる人とは、我慢というストレスの感じ方も違ってきます。シーズンオフで太ってしまう人って多いんですよ。それって何が好ましい・懐かしいと思うのか(つまりは、小さい頃から培っている食習慣)に影響されているんだと思います。結果的に「バランスの良いものを食べたくなる舌」の人たちってスポーツ界でも有利だった気がします。ほっといても太りにくいですしね。舌の教育って大事だと思います。
【杉】特定の人にアジアの料理が受け入れられているのは、そういった理由もあるんですかね。
【為】そうそう、緑茶とかね。緑茶だけじゃ変わんないよ!って僕らは思うんですけど。
【杉】投資を決めていただく前に一度、倭 西麻布(レストラン)で食事をご一緒させていただいたじゃないですか。あのときどんな印象を持ちましたか?
【為】削ぎ落としたいんだな、って。
【杉】なるほど。
【為】例えば、プロテインはどんどん足していく感じがあります。足りないものをどんどん足して、大きくなっていくイメージ。でもそういうものってある程度まで行きすぎちゃうと、それに対して人って違和感を覚え始めて、今度逆にシュリンクしていく。それを繰り返していると思うんですよ。一方で、杉岡くんが言わんとしていることは、自然とか素材の味とか、要するに足しすぎずにそのままの味を活かそうとしている。実際食べてみても、素材の味がしっかりしていたと思います。
【杉】確かに、世の中には”足し算のもの”って非常に多いですよね。
【為】多分、マーケティング的に必要なんでしょうね。なので、「1個にしましょう!シンプルがいいじゃないですか!」という杉岡くんの考え方は、ある意味本質的だけど実はビジネスの流れからすると逆行しちゃってる。「数少ないものを食べていきましょう」ってなんか儲からなさそうじゃないですか。だからこそ、新鮮に映るし、強い哲学になるんじゃないかな、というのもあるんですけどね。
【杉】これまでいろいろと足すことでマーケットをつくってきた一方で、今度は、本当に必要なものと企業が提案しているライフスタイルに乖離がうまれはじめた。そのことにメーカーもぼんやりとは気づいているけれど、なかなかこれまでの一般的なビジネスモデルだと構造的に見えづらく、乖離を埋められずにいる気がします。顧客とダイレクトに繋がりながらデータドリブンにビジネスを進めていかないと、この差は見えて来ないと思うんです。
【為】●●デトックスって増えてきていますよね。デジタルデトックスとか。日本のメーカーも近い将来そういう方向に向いてくるんじゃないでしょうか。その時に一番大事になってくるのは、本当に欲しいと思っているものはなんなのか、また(気づいていないけど)自分の身体が欲しいと思っているものが何なのか、それを埋めてあげることが大事なんじゃないでしょうか。後者はまさに、データが必要になる部分ですよね。
【杉】スティーブ・ジョブズはiPhoneという、誰も想像していなかったマーケットやニーズをつくった。競合は自分たちが積み上げてきた経験から仮設を立て、表面的に見えているマーケットやニーズを追いかけていたため、表面化していない新しいマーケットの声やニーズを感じることができなかった。そしてそのことに世の中の多くの人も気づいておらず、電話やメールがそれぞれ独立してできるだけで満足していた。食のマーケットも、今まさに同じような流れになってきているんじゃないかなと思うんです。
【為】そうだね。星野リゾートの星野さんのことばで、「サービス」と「おもてなし」の違いというのがあるんですが、「サービス」は顧客のニーズを満たしていくもの。一方で「おもてなし」は顧客の知らないニーズに提案していくことなんだと。それがなぜ大事なのかというと、そこにサプライズがある。データでわかる本人の知らない何かを提供する、というのは「おもてなし」に近いんじゃないかな。
【杉】残念ながら、食の領域ではまだ実現できていない気がします。アパレルやエンタメの領域だとどんどん進んでいますよね。
【為】データが最後の購入データの後継になってしまいますからね。そもそも顕在ニーズの集合体になっちゃってるからなぁ。
【杉】なので、まずはデータ。更にそのデータをどう扱っていくか、ということを考えるとまだまだ可能性がひろがってくると思います。本来であれば、僕たちが今しているような、顧客のニーズを逆算してモノをつくるというプロセスが大事ですが、食のマーケットはどちらかというとプロダクトアウトの考え方が強い。この材料があるから何かつくれないかな〜といったメーカーが今までは多かったんじゃないでしょうか。マーケットインはそもそもハードルが高いですしね。
【為】哲学も似てますね。
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